SIGGRAPH 2018参加レポート-前編
はじめに
カブクの甘いもの担当の高橋憲一です。
8月の12日から16日までカナダのバンクーバーで開催されたSIGGRAPH 2018に参加してきました。私にとっては5回目、カブクに入ってからは2回目のSIGGRAPH参加です。
SIGGRAPHとは
SIGGRAPHはコンピューターグラフィクス(以下CG)に関する世界最大の学会で、毎年夏にカンファレンスが開催されます。最新の研究成果の論文発表が行われるのはもちろんのこと、世界各地からCGに関わる人が集まるためお祭りのような側面もあり、期間中は様々な催しがあります。実に盛りだくさんの5日間で、社内の報告会用に作成したスライドは90ページを超えたほどです。
この記事ではSIGGRAPH 2018レポートの前半として、Technical Papers, Poster, BOF, Emerging Technologies, Exhibitionについて書きます。
Technical Papers
128の採択された論文があり、38のカテゴリごとに執筆者により解説されるセッションがあります。
(全ての論文一覧はこちら)
ここではカブクの3Dグラフィクス関連の開発を担うエンジニアとして気になった論文を関連するカテゴリごとにピックアップします。
3Dプリンティングに関する論文を見つける際は additive manufacturing や fabrication (=製造)という言葉でリストを検索すると関連するカテゴリがヒットします。
New Additions (and Subtractions) to Fabrication
3Dプリンティングだけでなく金型造形や切削加工も含むfabricationのカテゴリです。
CoreCavity: Interactive Shell Decomposition for Fabrication with Two Piece Rigid Molds
カブクでインターンをしていたこともある、東大五十嵐研の中嶋くんの論文です。
3Dプリンティングではコストがかかる多数のオブジェクトの複製を金型成形でできるようモデルを適切に分割することを目的としたものです。
3Dプリンティングは複雑な形状の造形が可能ですが、造形に時間がかかるというデメリットがあります。一方で金型成形は、複製のコストが安い、時間が短くて済むというメリットがありますが、複雑な形状ではその型のデザインが難しいというデメリットがあります。
その金型成形の問題を解決するために、3Dモデルを薄い殻を持つ中空の構造に変換し、射出成形のための型の2つに分割する際の境界の最適化も行うというアプローチが取られていました。
セッションの後、本人と話をしてみたところ「Stanford Bunnyのモデル90匹の画像でウケが取れたので満足」と言っていましたw
また、初日にTechnical Papers Fast Forwardという全ての採択論文が1組あたり30秒の時間で紹介されるセッションがあるのですが、その中でこの論文の説明の際に型からStanford Bunnyが生成される動画が流れた時にも会場から拍手と歓声が上がっていたので狙い通りだったようです。その時の動画がこちらにあります。
Fabrication for Color and Motion
色の表現や何か動くもののためのfabricationのカテゴリです。
Skaterbots: Optimization-Based Design and Motion Synthesis for Robotic Creatures with Legs and Wheels
任意の足や車輪を組み合わせてロボットをデザインするためのツール。レゴでブロックを組み合わせるかのように多脚、多関節のロボットを作成できるようになっていて、画面上で動作のシミュレーションも可能な点がとても面白い研究です。
これには今年のMaker Faire Tokyoでカブクブースのロボット作成をリードした同僚のエンジニアも食いついていました。
3D Capture
物体の3D形状を取得する研究のカテゴリです。
Instant 3D Photography
iPhone X等のデュアルレンズを持つスマートフォンを用いて3Dパノラマを作成する研究。
複数枚のRGBと奥行きの画像から周囲の3Dメッシュとテクスチャを手軽に構築できる仕組みで、1枚あたり1秒で処理し、パノラマとして生成するのには1分程度かかるとのことです。
Reconstructing Scenes with Mirror and Glass Surfaces
通常の3Dスキャナではスキャンしにくい、ガラスなどでできた透明なオブジェクトの形状を得るための研究。
オブジェクトの後ろに配置した液晶モニターに特定のパターンを表示してカメラで撮影し、その屈折などから形状を推測するというものです。
Poster
Technical Papersとは別にポスター発表もあります。
BOLCOF
3DプリンタにReal Senseを組み合わせて、途中でプリント失敗した場合に後から追加で造形できるようにする筑波大の研究
Stitch: An Interactive Design System for Hand-Sewn Embroidery
刺繍の初心者がコンピューター制御のソーイングマシンを使わずに手で刺繍するためのデザインをできるようにする仕組みの研究。線画を書いた後にパスを変更したり、模様のパターンで塗りつぶしたりしてデザインすると、システムが開始点を示す等のサジェスチョンをしてくれるようになっています。
Automatic Display Zoom for People Suffering from Presbyopia
老眼に困っている人のための自動ディスプレイズーム機能の研究
(本筋の話ではありませんが、この2つを見ると共通点が…
いらすとやの絵は今や国際学会のポスターにも使われているのですね。)
BOF
Birds Of a Featherの略で「同じ興味を持つ人の集まり」というような意味になります。期間中に大小様々な規模のBOFがあります。
Khronos BOF
Vulkan, OpenGL, OpenGL|ES, glTF, webGL, OpenXR等の規格を策定するKhronosのBOFが丸一日かけて、コンベンションセンター近隣のホテルの1室で行われました。最初にFast Forwardとして全体のダイジェストと、各規格ごとの詳細なセッションがあり、その全ての様子はこちらの動画で見ることができます。
VulkanとOpenGLのトピックスの量を比較すると4:1ほどの差があるように見受けられました。
「OpenGL|ES 15周年!パチパチパチ〜」という場面があったり、 「Open GL is still alive!」と言ったりしてはいましたが、Khronos自体のイベントでこのような傾向が見られるということは、WWDC 18でOpenGLをdeprecatedにすると宣言したApple云々ということを抜きにしても業界全体でOpenGLへのコミットは下がっていくのかもしれません。(カブクの3Dモデルプレビュー用レンダラでもOpenGLを使っていますし、私も長年使ってきていて親しみがあるのですが、OpenGLだけに拘って自分自身がdeprecatedにならないようにしないと…)
glTF
ネット経由でやり取りする3Dモデルフォーマットの標準としてのポジションを確立しつつあるglTFのセッションでは、Visual Studio Codeのプラグインの説明や、既にglTF 2.0のエクステンションとして取り込まれているDoraco(Googleがオープンソースとしてリリースした頂点データ群を圧縮する仕組み)がアニメーションのキーフレームやモーフのターゲットにも対応するという話がありました。そして、TensorFlowと組み合わせてさらなる機能アップをするかも…というFuture additionsのチラ見せも。
OpenXR
OpenXRはVR, AR, MRデバイスを提供する各ベンダーごとに乱立するAPIを統一していこうとしている規格で、ようやく開発機がリリースされたばかりのmagic leapもジョインしたという話がありました。
Networking Reception
最後にはレセプションもあり、ビールらしきものを飲んで目がイッているStanford bunnyたちのイラストがツボに入りましたw
Emerging Technologies
SEER: SIMULATIVE EMOTIONAL EXPRESSION ROBOT
藤堂高行さんという日本人のアーティストの作品で、視線および表情表現力を追求した小型のヒューマノイドロボットです。眼球を注視点に向けて結ぶコントロールと、軟質弾性ワイヤによって眉を「線描」する機構により、目元に命が宿っているような印象を与えるようになっており、2018年6月の東大山中研の「Parametric Move 動きをうごかす展」でも話題になっていたものが世界展開へ。
光学系の展示が多いEmerging Technologiesの中で異彩を放っていて多く人の注目を集めていました。
Exhibition
CGに関するプロダクト等を各企業が展示する、いわゆる展示会の部分です。
NVIDIA
会期中にNVIDIAの特別セッションでレイトレーシングを実現する初のGPUであるQUADRO RTXが発表されたこともあって、NVIDIAのブースにの一角にはこんな撮影セットがありました。現在のレイトレーシングの基礎となる、1979年に発表された "An Improved Illumination Model for Shaded Display" で、"Figure 6"として半透明のオブジェクトのリフレクションを示した図を模したものです。
実際に撮影した結果はこうなります。
ARCore
端末でトラッキングしてテーブルの上にARで3Dオブジェクトを表示し、そのトラッキングデータをクラウドに転送して奥のディスプレイでサーバーサイドでの描画でも同じ動きをリアルタイムに連動させるデモ。
Star VR
水平方向210°、垂直方向130°の視野を誇るVRゴーグル。
ゾンビが出てくるゲームを体験させてもらったのですが、横から近づいてくるゾンビが視野の片隅に見える状態は自然の視界に近く、これを一度体験すると既存の水平方向100°前後のVRは双眼鏡で覗いた世界のようにさえ感じるほどです。
次の特別編、そして後編ではVR関連の内容についてさらに詳細をレポートします。お楽しみに!
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