SIGGRAPH 2018参加レポート-後編(VR/AR)
はじめに
カブクの甘いもの担当&ヘッドマウントディスプレイと同い年の高橋憲一です。
前編と特別編に続き、8月の12日から16日までカナダのバンクーバーで開催されたSIGGRAPH 2018の参加レポートの後編としてVR/AR関連の情報をお届けします。
Immersive Pavilion
ここ数年のSIGGRAPHではVRに力がいれられており、展示とデモのスペースに相当の広さが割り当てられています。Immersive Pavilionと名付けられた場所に下記のような4つのカテゴリに分かれて多数の展示とデモがあり、どれがどのようなものでどこにあるのか把握するのに難儀しました。
- VR Kiosk … 数分の尺の360°動画をOculus Goで見るなど、比較的ライトな作品を鑑賞するブース
- VR Theater … 50分ほどかけて4,5本の360°動画のVRアニメーション作品を鑑賞するスペース
- VR Village … 実際に体験できるインタラクティブなVR/ARコンテンツのブースが多数
- VRCADE … VRコンテンツを幾つか集めたゲームセンターのようなスペース
歴代ヘッドマウントディスプレイの展示
Immersive Pavilionに入ると最初に飛び込んでくるのが歴代のヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)の展示スペースです。
MicrosoftのHolorensの試作機が4台
Holorensがまだリリースされる前の2012年当時の試作機が4種類展示されていました。
バーチャルボーイを始めとする任天堂のデバイス
1995年に発売された任天堂のバーチャルボーイや、1989年のパワーグローブが歴代のデバイスの中でも大きな存在感を出していました。
VRに関する小説
歴代のデバイスに紛れてVRに関連する小説も展示してありました。
映画化されたことも記憶に新しいReady Player One (2011)
Neuromancer (1984), Ender's Game (1985)
Pygmalion's Spectacles (1935)
1935年に出版された、VRの概念が出てくる初めての小説。
展示に使われていたVRデバイスの種類
正確に集計してはいないのですが、各展示やデモで使われていたVRデバイスの種類を多かった順に並べるとだいたい以下のようになります。
- HTC VIVE
- Oculus Rift
- HTC VIVE Pro
- Lenovo Mirage Solo (Daydream)
- Samsung Odyssey (Windows MR)
- Daydream View
- Oculus Go
PCのパフォーマンスが必要なコンテンツは必然的にHTC VIVE, Oculus Rift, HTC VIVE Proの何れかを使用するということになりますが、そこにWindows MRのHMDも加わっており、機種はSamsungのOdyssey一択でした。1440×1440の液晶パネルx2というスペックが他のWindows MR機と比較して抜きん出ているのが理由でしょう。他はDaydreamのスタンドアロンHMDであるMirage Soloが結構な数で健闘していたといったところで、ケーブルが不要で6DoFのトラッキングができる点が重宝されているのだと考えられます。6DoFではないOculus Goは360はVR Kioskで360°動画コンテンツを視聴するために使われていました。
CAVE
ニューヨーク大学のKen PerlinのFuture Reality Labが制作したVR映像作品。
約30台のMirage Soloが用意され、参加者は中心を囲むように同心円状に並べられた椅子に座ってHMDを被って鑑賞するようになっていました。
HMDを被るとそこは洞窟の中で、実際の映像は上図のパネルのイメージで中心に焚き火が見えていました。その洞窟の中でストーリーが展開されていくのですが、座っている参加者も線画のシルエットとして見えていて、全員ではないものの何人かの頭の動きはHMDに連動していたようです。
VR Village
Cycles
Disney Animation Studioによる初のVRショートフィルム実験作品。SIGGRAPH 2018が初お披露目の場だったということもあってか、ディズニーランドを思わせるような長い待機行列でしたが、待っている人が退屈しないようメイキングビデオを再生したり、ARコンテンツを楽しめるタブレットが回覧されていました。
HMDはHTC VIVE Proが使われており、ブースには3人分のHMDが用意され、順番が回ってくるとスタッフの方に装着してもらい視聴開始です。
HMDを通してみると自分はある家の中にいて他には誰もいないのですが、やがて玄関のドアが開き幸せそうな若いカップルが入ってきます。そのカップルが結婚してひとつ屋根の下に暮らし、子供ができ、やがて夫が他界し、最後に奥さんの方が娘さんに連れられて家を去るまでの時間の流れをショートフィルムで追うものとなっていました。その途中、家の中で注目すべき場所を見ると色が付き、視線を外すと色が消えるようになっており、音やライティングで見るべき場所が示されていました。
作品中の映像で公開されているものが殆どないのですが、唯一Disney Animationの公式twitterアカウントに出ていたものがあります。
"Cycles," our first-ever VR short film, will be making its U.S. debut at the New York Film Festival's Convergence! #DisneyCycles #NYFF pic.twitter.com/DaNmzqy41n
— Disney Animation (@DisneyAnimation) August 16, 2018
監督はアナと雪の女王やズートピア等でライティングアーティストを努めたJeff Gipson氏で、氏の幼少期の祖父母と過ごした記憶から着想したそうです。制作には50人のスタッフで4ヶ月ほどかかり、通常のアニメーション作品で使う絵コンテの代わりにQuillで2Dの手書きの絵を配置するなどの工夫したとのことです。
Light Field VR
GoogleのLight Field Cameraの実物が展示されており、それを使って撮影された360°写真の中に入り込む体験をすることができました。コンテンツの鑑賞用HMDはHTC VIVEで、「入り込む体験をした」と書いたとおり、範囲はそれほど広くないものの360°写真の中を6DoFで上下前後左右に動いて視点を変えて見ることできます。
「この位の可動範囲ならMirage Soloでもやれないの?」と聞いてみたのですが、「いろいろ試してはいるが、今のところはPCのパフォーマンスが必要」とのことです。
VOYAGE
唯一Daydream Viewを使用していたコンテンツ。学校の教室向けにマルチプレイヤーで体験できるもので、コントロールパネルから先生が操作、監視できるようになっています。
Multiplayer Augmented Reality: the Future is Social
大部分はVRですが、一部、ARの展示もありました。
NianticがNeonという実験的に制作されたマルチプレイヤーのARゲームの体験ブースを出していました。実際に試させてもらったところ、スマホをかざして他のプレイヤーに向けてビームを打った際のエフェクト表示が遅延なくプレイヤーの動きに追従していることを確認できました。
Experience PresentationsのセッションではNianticのAR開発担当の方から、レスポンスの良いAR体験のために「クラウドを経由する場合は100ミリ秒以上のレイテンシがあるが、ピア・ツー・ピアでやり取りすることで10ミリ秒以下のレイテンシに抑えている」という話もありました。
INVISIBLE
日本のアカツキという会社が開発したFPSタイプのARゲームで、光学迷彩のような効果など、見えない敵の表現が秀逸です。Experience Presentationのセッションでは光学迷彩の表現手法について、カメラからの画像を敵キャラにProjective Texture Mappingでフレーム毎に投影することで実現しているという説明がありました。
VRCADE
VRとARCADEを合わせてVRCADE
ゲームセンターのことをアーケードとも言いますが、そのアーケードのノリでVRコンテンツを体験する場所という意図のようです。
コインを3枚渡されて入場すると中には複数のブースがあり、様々なインタラクティブなVRコンテンツが用意されていました。そのブースでコインを1枚渡すと体験できます。(コインをチャリンと入れるわけではないのですが…)
私が体験したのはVR SPACEWALK
国際宇宙ステーションの修理をするために船外に出て、金具を手(HTC VIVEのコントローラー)で掴みながら外壁に沿って移動したり、ロボットアームの先端に乗ってグイーンと移動させられたり、最後はデブリに当たって遠くに飛ばされてヘルメットのスクリーンが白く曇って(凍りついて)終了でした。
SIGGRAPH 2018報告会
2018年9月7日に開催されたシーグラフ東京主催のSIGGRAPH 2018報告会ではVR/AR関連のレポートを担当しました。その時の資料です。このブログ記事で紹介しきれなかった写真もありますので良ければご覧ください。
最後に
VRはゲームのようなインタラクティブなコンテンツが主流と考えていましたが、映像作品を鑑賞する手段としての比重が大きかったことが印象的です。
3回に渡ってお届けしてきたSIGGRAPH 2018のレポートですが、それでも語りきれていないことがまだあるほど密度の濃い5日間のカンファレンスでした。コンピューターグラフィクスに関わる人にとってこれほどまでに勉強になるイベントはないと言って良いでしょう。本家SIGGRAPHに参加するには北米大陸までの長旅が必要ですが、アジア地域で開催されるSIGGRAPH ASIAが今年は東京で12月4日から7日にかけて開催されます。このブログを読んで興味を持たれた方はぜひ参加してみることをおすすめします。
全てのセッションは聴講できないのですがエクスペリエンスパスという3000円(10/26までの早期割引だと2000円!)のお得なパスも用意されており、ちょっと覗いてみるだけでも新しい発見に出会えるかもしれません。
その他の記事
Other Articles
関連職種
Recruit